偏差値以外も大学情報公開義務化
来春からすべての大学や短大に対し、入学者数や学部の教育上の目的などの情報をホームページ上などで公開することが義務づけられる。大学は全国に約780校、短大は約400校あり、志願した人の9割以上が入学する時代。進学先を決める時の情報の読み解き方を探った。
7月24日、慶応大の日吉キャンパスで「これからの大学」を語りあうイベント「リアル熟議」が開かれた。高校生や大学生、学校の教職員、会社員ら約100人が抽選で参加。9班に分かれて「大学はもういらない?」というテーマで約4時間、議論した。
企画したのは、同大総合政策学部4年の本田哲也さん(21)ら4年生が中心で、慶応大、東京大、千葉大などの学生約40人が運営した。厳しい就職活動を経験して大学のあり方に疑問を感じたのがきっかけだ。「入り口」にあたる大学入試制度と「中身」の大学の学習と研究、「出口」の就職と進学という三つの分科会を設けた。
大学入試の班では、高校2年の中野友博さん(16)が「大学に入ってから学部が変えられるなんて知らなかった。勉強ができても就職できないの?」と素朴な疑問をぶつけると、学生たちは苦笑い。「高校生と大学の情報のズレはどうして起こるのか」といった声があがった。
参加した鈴木寛文科副大臣は「大学の情報が高校に届いていないと改めて気づかされた。偏差値だけでは就職できないことなど、高校生に伝えていく必要があると思った」と話した。
■就職実績 背景も確認
大学の情報公開はこの夏、学校教育法施行規則が改正され、来春からの義務化が決まった。適切な情報提供で受験生によりよい大学選びをしてもらうことと、外部公開で大学教育の質の向上を図るのが狙いだ。
公開が義務づけられたのは、すべての大学や短大の入学者数や教員数、授業科目、学費など9項目。
すでに、ホームページ上の「大学案内」などで、積極的に情報公開している大学も多い。入学定員、受験者、合格者、入学者数だけでなく、就職率や就職先企業などを公表している大学もあり、いまから情報チェックが可能だ。
では、偏差値以外で、どんな情報を見ればいいのか。リクルートが発行する大学経営者向け専門誌「カレッジマネジメント」の小林浩編集長は、就職率などの「データの背景を確認してください」とアドバイスする。
例えば、就職率なら分母は就職希望者なのか、卒業生全員か。就職先の企業名は過去何年分か。「有名企業が並んでいても、何年も前の就職先かもしれません」と指摘する。今回の義務化の対象からは外れているが、中退率も参考にできる指標の一つだ。高ければ悪いわけでもないが、どういう理由が多く、大学が学生を支援する姿勢や仕組みがあるのかどうかを確認するチャンスになる。
「学生に対する教員の数も大事な指標の一つ」と話すのは、静岡産業大の大坪檀(まゆみ)学長だ。「自分の能力を引き出してくれるのが良い大学。大人数のマス教育か少人数教育なのかを確認する目安になる」という。そして、学費。「年間100万円単位の投資は安くない。費用対効果で考えて」と話す。
■「変化」から実践知る
大学情報の年ごとの変化を読み取ることも、各大学の取り組みを知る助けになる。千葉商科大(千葉県市川市)の1年次の退学率は2007年度に4.3%だったが、08年度に4.0%、09年度に3.6%に下がった。同大は「教職員が情報を共有し、退学予防とキャリア教育、学生の意欲と関心に応える教育について議論し、実践につなげてきた成果ではないか」と説明する。
例えば、商経学部では昨年度から、1年生向けの必修の「研究基礎」で、1クラス約30人の授業に教員だけでなく、補佐役として毎回大学職員と上級生が出席し、学生を支援するという態勢を組んでいる。
入学直後の授業で教職員の電子メールや電話番号を公開し、学生の連絡先も任意で教えてもらう。学生が1回でも欠席すると、メールか電話で連絡をする。朝比奈剛・教育革新センター長(38)は「学生が休みがちになったときは、勉強や進路、経済的につまずいている可能性が高い。それをキャッチできるようにしたい」と話す。
こうした情報を整理した上で、「進路は人任せにしないこと」と渋谷教育学園の田村哲夫理事長は言う。「大学の情報公開はだいぶ進んできましたが、オープンキャンパスなどの機会に大学に行き、いろいろな質問をしてみましょう。保護者は適切なアドバイスにとどめて、受験生本人が自分で進路を決めることができるようにしてあげて」
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【公開が義務化される大学情報】
○学部、学科、課程などの名称
○教員組織、教員数、教員の学位・業績
○入学者数、定員、在学者数、卒業者数、進路
○学部・学科・課程・研究科・専攻ごとの教育研究上の目的
○授業科目、授業の方法や内容、年間授業計画
○修業年限に必要な修得単位数、取得可能な学位など
○所在地や交通手段、キャンパス、施設、課外活動など
○授業料、入学料などの費用、授業料減免の概要
○学生の支援組織、利用できる奨学金概要
※中退率は義務化の対象外
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